札幌高等裁判所 昭和25年(う)222号 判決 1950年7月13日
控訴人 被告人 草薙祥一
弁護人 百瀬武利
検察官 樋口直吉関与
主文
本件控訴を棄却する。
理由
弁護人の控訴趣意は別紙記載のとおりでこれに対して当裁判所は次のとおり判断する。
第一点について。
有罪判決を言渡す場合に於ける罪となるべき事実としての犯罪の場所の記載は裁判管轄を明らかにし日時方法等と相俟ちて犯罪事実を特定し得る程度において判示するを以て足るものと解すべきところ是を本件について見ると原判決は先づ「被告人は……札幌市南五条東三丁目印刷業国方産業の外交員となり……別紙のとおり前後十一回に亘り前記国方産業のため集金し或は他に支払のため同人より受取り自己において業務上保管中……いづれもその頃擅に着服横領」と判示し其の別表備考において「(一)……支払の為国方由太郎より一万円受領内五千円着服。(二)右国方由太郎より紙代として四万四千円受取内二万四千円着服。(三)国方由太郎よりマッチ代として一万四千四百円受取内九千六百円着服。(四)札幌市北六条西五丁目岩崎測量器株式会社よりマッチ代として受領着服。(五)国方由太郎より水野メガネ店へ支払のため五千円受領内千五百円着服。(六)小樽市稻穗町いろは堂書店より絵葉書代として受領着服。(七)札幌市南一条西三丁目富貴堂より絵葉書代として受領着服。(八)札幌市南一条西四丁目西林茶房よりマッチ及び包装紙代として受領着服。(九)岩内町盃漁業会より便箋代として受領着服。(十)札幌市南一条西八丁目田中利吉より受領着服。(十一)札幌市南一条西二丁目井交通公社より絵葉書代として受領着服と判示しているのであつて被告人が金員の受領を為した都度本件着服による業務上横領の所為が既遂に達し従つて其の犯罪の場所は夫々金員を受領した右別表(一)乃至(三)(五)については札幌市南五条東三丁目印刷業国方方(四)については札幌市北六条西五丁目岩崎測量器株式会社方(六)については小樽市稻穗町いろは堂書店方(七)については札幌市南一条西三丁目富貴堂方(八)については札幌市南一条西八丁目田中利吉方(十一)については札幌市南一条西二丁目井交通公社方であることが推知し得られ其の裁判管轄は札幌地方裁判所に属する事実を知り得るのみでなく原判示の日時方法と相俟ちて犯罪事実は特定し得られるのであるから原判決の判示方法は稍々不明確のきらいがないでもないが弁護人主張の如く犯罪の場所の記載がないとは云い得ない論旨は理由がない。
第二点について。
本件記録に現われた諸般の事情を綜合すれば原審が判示事実を認定し被告人を懲役二年の実刑を科したのは量刑重きに失するものと信ずるに足る理由がなく此の点の論旨も亦採用に値しない。
而して職権により記録を精査するも原判決には事実誤認その他違法の点がないから刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却する。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判長判事 黒田俊一 判事 猪股薫 判事 鈴木進)
弁護人の控訴趣意
第一点原判決は犯罪の場所即着服横領の場所を摘示していない違法がある原判決を茲に引用する右違法により原判決は破棄を免かれないものと信ずる。
第二点原審は被告人を懲役二年に処したのであるが本件記録中左記諸点によると原審の刑の量定は不当に重きに失するものと信ずる。
一、被害金額は原判決によるも金十二万八千五十円に止まり真の実害は 記録第七十八丁計算書の通り金七万九千六十円であること。
二、記録第一〇二丁示談書の通り当事者間に和解成立し其の和解金は支払済で被害者から嘆願書(記録第一〇四丁)が提出されていること。
三、被告人には前科あるも前示の如く解決済であり特に憎悪すべき犯情なきこと。
四、妻子あり親戚も相当で改悛の情顕著であること仍つて原判決を破毀し相当裁判仰度し。